北海道大学ローエネルギーハウス
工学研究科 助教授 長野 克則

  JRのアンダーパスを越えて西11丁目通りを北進し農場の方に目を移すと、その奥の工学部敷地内に何やら大学には似つかわしくないペンション風な外観の住宅が目に入ると思います。これが、写真にある積雪寒冷地における実証実験のためのローエネルギーハウスです。この建物は、科学技術振興事業団戦略的基礎研究推進事業「環境低負荷型の社会システム」研究領域の公募研究「自立型都市を目指した都市代謝システムの開発」(研究代表:東京農工大学柏木孝夫教授)プロジェクトの一環として1997年3月末に竣工したものです。本研究に関するグループは、本年3月に退官された落藤澄名誉教授をリーダーとして、工学研究科人間環境計画学講座のメンバーを中心として計11名の研究者からなり、1996年度より5カ年の予定で遂行されています。この間多くの大学院生・学生諸君の協力を得て実験、データ解析を行ってきました。我々の研究の目的は、自然エネルギー・未利用エネルギーと蓄熱を活用した環境低負荷型の民生用エネルギーシステムのあり方を検討することですが、その中で太陽・大気・大地の3つの自然エネルギーを組み合わせ、自然界の蓄熱サイクル利用の可能性を評価するために、まず実際のローエネルギーハウスを建設しました。しかし、この住宅は近未来の理想的なゼロエネルギーハウスではなく、あくまでもローエネルギーを目指した種々の実験を行うための実験住宅です。
【図1】導入設備システム


【図2】年間消費エネルギーの比較

  さて、このローエネルギーハウス地上2階、地下1階建てで、地上部の延べ床面積は約39坪あります。建築工法には省資源・省エネルギー性の高い断熱パネル工法を採用しました。建物熱性能は国内外の省エネルギー基準を大きく上回り、建物熱損失係数は0.97W/(m2・K)となっています。 さらに住宅南面に超高性能な大きな窓を設け、建物内の熱容量を大きくするといった典型的なパッシブ手法を採用して計画段階で暖房用消費エネルギーを札幌の平均的な住宅の消費量の3分の一以下、灯油消費量換算で言えば500 以下としています。一方、この住宅の良好な室内温熱環境や空気環境をどのような設備構成を用いて最小のエネルギー消費やCO2発生量で保てるか、さらにはどの程度自立化できるかを実証できるように、図1に示すような種々の暖冷房・給湯・換気設備、太陽光発電および小型風力発電設備を導入しています。図2に本実験住宅の年間エネルギー消費量の推定値を従来型住宅と比較して示します。この住宅の年間エネルギー利用量は約12GJと従来型の94GJに比べ8分の一程度まで削減できることがわかりました。現在、実証実験を元にしたシミュレーターを構築して気候風土の異なる世界各地におけるローエネルギー住宅の提案と導入の効果を明らかにしています。今後、世界の住宅のあり方に影響を与えられるようなコンセプトを示すことが我々の目標です。


 

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