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第10回ソウル大学−北海道大学ジョイント・シンポジウム開催

 第10回ソウル大学−北海道大学ジョイント・シンポジウムが,1月24日(木)〜26日(土),ソウル大学を会場として開催されました。
本学とソウル大学は,1997年の大学間交流協定締結を記念して1998年に第1回合同シンポジウムを札幌で開催して以来,毎年交互に当番校となって合同シンポジウムを開催しており,今回で10回目となりました。第5回までは統一テーマのもと,比較的小規模なシンポジウムを開催していましたが,第6回以降は,全体会と複数の分科会という形式での開催となり,世代や研究分野も多様な研究者が,様々なテーマのもとに,幅広い交流を行う場となりました。
 1月24日(木)に開催された全体会では,「エネルギー,環境,サステナビリティ」をテーマに,佐伯浩総長及びJang Moo Leeソウル大学総長の開会挨拶に続いて,基調講演として理事・副学長の岡田尚武教授がサステナビリティに関する本学の取組紹介を行いました。また,ソウル大学側は,大学院環境科学研究科Sun-Jin Yun教授が「気候変動の時代におけるエネルギー,環境,サステナビリティの現状と未来」と題し,韓国の環境問題について講演を行いました。
 1月25日(金)はソウル大学キャンパス内にて理学,医学,工学,情報科学,地球環境科学などの分野において合計8つの分科会が開催され,これまでの研究成果発表や,大学院学生による研究交流セッションなどが行われました。また,本シンポジウムの一環として,2月21日(木),22日(金)にはソウル大学及び本学スラブ研究センター共催により国際会議も開催されました。
 10回目を迎えた本シンポジウムには,本学より過去最高の総勢86名が参加しました。今回は特に大学院生や若手研究者の交流が図られ,交流の量・質ともに充実した内容となりました。また,今回のシンポジウムにあわせて,大学間交流協定更新の調印式も行われ,これまで以上に両校の教育・研究交流の幅が広がり,協力関係が益々発展することが期待されます。
全体会後の記念集合写真 大学間交流協定更新調印式後のJang Moo Leeソウル大学総長と佐伯総長
全体会後の記念集合写真 大学間交流協定更新調印式後のJang Moo Leeソウル大学総長と佐伯総長
(学術国際部国際企画課)


分科会報告
○分科会1「第1回イメージングシンポジウム」
−Imaging-Luminescent and Fluorescent Probing Technology
医学研究科 教授 近江谷 克裕
 医学研究科,先端生命科学院,電子科学研究所の光イメージング関連研究グループは,ソウル大学自然科学部と,1月25日(金)午前10時からキャンパス内のMokam Hallにおいて分科会を行いました。世話人であるソウル大学脳研究所所長のK Kim教授,私の挨拶に続いて,「Imaging-luminescent and fluorescent probing technology」と題し,韓国側からソウル大学K Kim教授や韓国計量研(KRISS)Chang教授など研究者の4件の講演が,本学からは電子科学研究所永井教授を始めとした4件の講演が行われました。また,テクニカルセミナーも行われました。
参加者による会場での記念写真
参加者による会場での記念写真
 本シンポジウムは蛍光や発光プローブを利用した生体イメージングの最新の情報が満載された講演会であり,ソウル大学側から多くの大学院生が参加し,活発な議論が行われました。若手の方々が積極的に講演や質問をしている様子が印象的であり,北大の大学院生らも触発されるであろうと感じました。さらに,昼休みを利用した研究所ツアーも実施され,レベルの高い研究施設に北大側も大いに驚かされました。本分科会は1回目ということもあり,手探り状態の運営でしたが,実りある交流であることから,双方,継続していきたいという決意表明で終えることができました。講演後は大学内のレストランで懇談し,さらに2次会がソウル市内で開かれ深夜まで親睦を深めました。なお,本シンポジウムは,韓国21世紀フロンティアプログラムとアトー株式会社に後援いただきました

○分科会2 「第3回SNU-HU 機械工学と宇宙工学シンポジウム」
−The 3rd SNU-HU Symposium on Mechanical and Space Engineering
工学研究科 教授 藤田  修
 工学研究科の機械知能工学系専攻は,ソウル大学機械・航空宇宙工学科と,1月25日(金)午前9時30分からキャンパス内の先端自動車研究センター(AARC)において分科会を行いました。両大学の専攻長から挨拶及び両専攻の状況紹介があった後,午前2件,午後4件のテクニカルセッションを実施しました。分野は,燃焼・エネルギー,燃料電池と流れ,先進複合材料,宇宙・推進などについて議論を行いました。本年の新しい試みとして,双方の学生が司会進行及び発表を行う学生セッションを設けました。英語による発表であることや両大学学生間の若干の競争意識なども手伝い,適度な緊張感の中で活発な議論が展開されており,参加学生には良い刺激になったと思われます。教員セッションでは,双方の最新の成果が報告され,ソウル大学の一般の学生も多く聴講しており,質の高いシンポジウムになったと感じております。
分科会の様子
分科会の様子

 今回は北大から教員が7名,大学院生が5名参加しました。参加した大学院生の多くは,初めての海外発表であり,本シンポジウムが大学院生の育成の場としても大きな役割を果たしたと思います。また,シンポジウム終了後は,教員同士,学生同士がそれぞれ親睦会を催し,交流を深めました。
 ソウル大学は,アジアの最も有力な大学の一つであり,今後も,本シンポジウムを,大学院生および若手研究者の育成の場および北大−ソウル大学の緊密な協力関係を築く場として,発展させて行きたいと思います。

 


○分科会3「環境科学シンポジウム」
−Environmental Science
地球環境科学院 教授 吉川 久幸
終了後の記念写真
終了後の記念写真
 1月25日(金)午前9時40分から16時20分までソウル大学のBldg25-1において,分科会「環境科学シンポジウム」を開催しました。分科会では,先ずK R Kim教授による挨拶のあと,池田元美教授より「21世紀COE生態地球圏システム劇変の予測と回避」後の課題と北大の取り組みに関する紹介がありました。その後の研究発表では,15分の発表,5分の質疑応答時間を設定し,双方のRA・大学院生が,それぞれの研究テーマを口頭発表しました。ソウル大からは6名,本学からは7名が口頭発表しましたが,その内容は,地球環境全般にわたった広範囲なものでした。ソウル大側の発表は,北大の環境科学院でいうと地球圏科学専攻の発表が多く,この点,もう少し工夫する必要があったかもしれません。本分科会は,日本語で発表した経験はあっても,英語で口頭発表したことのない学生を対象に参加を募りました。彼らにとっては貴重な機会になったようで,分科会のコーヒーブレイクや昼食中にソウル大生と熱心に議論していました。また英語で言いたいことが言えないもどかしさも,今後の学生生活の糧になったのではないかと思います。院生が懸命に頑張っている姿を見て,こうした機会が,若手研究者を育てるものと確信しました。分科会の終わりではK R Kim教授による全体の取りまとめがあり,今後についても議論し,継続して分科会を開催していくことで一致しました。

○分科会4「バランスある地球 −エネルギー,環境,情報学−」
−The Earth in Balance−Energy, Environment and Informatics−
情報科学研究科 教授 本間 利久
分科会参加者の集合写真
分科会参加者の集合写真
 今回は,本学から教員6名が参加し,ソウル大学からは教員5名,大学院生3名が参加しました。このほかに,宇宙航空研究開発機構(JAXA)から,衛星を使った森林・原野火災対策「アジアの監視員(Sentinel-Asia)」プロジェクトを推進する加来一哉氏も参加されました。Sentinel-Asiaには北海道大学,ソウル大学双方の数人のメンバーが参画しています。これまでの,衛星を活用した森林火災検知予測対策に関する研究のメンバーの他に,ソウル大学のHyeong-Dong PARK准教授(工学校)と大学院生が新たに参加し,遺跡保存のための光計測,熱帯林の地理情報システムなどの話題が加わりました。また本学の赤川敏教授(工学研究科),金子俊一教授(情報科学研究科)が新たに参加しました。赤川教授からは,永久凍土地帯のパイプライン敷設の新たな技術開発が紹介され,金子教授からは,グローバルCOEプログラム「知の創出を支える次世代IT基盤拠点」が紹介されました。話題が多岐にわたるようになりましたが,「エネルギー,環境,情報学」,「地理情報・衛星情報の活用」をキーワードとして,まとまりがとれていたと思います。
 今後も,「エネルギー,環境,情報学」,「地理情報・衛星情報の活用」といったことをキーワードとして,北海道大学,ソウル大学双方の参加者を広げられればと思います。

○分科会5「SNU-HU Joint Symposium 数学分科会」
−SNU-HU Joint Symposium of Mathematics
理学研究院 准教授 島田 伊知朗
 理学院数学専攻とソウル国立大学の数学教室は,1月25日(金)の9時30分より,ソウル大学キャンパス内のSangsn Mathematical Buildingにおいて,分科会「SNU-HU Joint Symposium of Mathematics」を開催いたしました。
 本学からの参加者は,ほぼ全員が分科会予定日の前日午後に千歳空港から仁川空港へ向かう直行便を予約していたのですが,1月24日(木)の札幌地方は大雪に見舞われ,一時は欠航するのではないかと非常に心配しました。幸い2時間遅れで離陸し,全員無事ソウルに到着することができました。
 講演が多数になり,また参加者の研究分野が多岐にわたっているため,シンポジウムは2つのセッションにわかれて行いました。一つは解析・力学系及び偏微分方程式のセッション,もう一つは代数・幾何及びトポロジーのセッションです。合計23名の研究者が最新の研究成果を発表しました。講演時間は1人25分ずつで,そのあとは活発な討議が行われました。
 両教室の若手研究者の交流が深まるよう,研究発表のプログラムにはなるべく大学院生及びポスドクを入れるようにしました。今後ともこのジョイント・シンポジウムが長く続き,共同研究などに結実していくことを期待します。
 このジョイント・シンポジウムへの参加は今回で5回目となります。シンポジウムのあと,同じ建物の4階にあるホールでパーティが開かれ旧交を温めました。
 ソウル国立大学の数学教室の皆さんの暖かいもてなしに感謝いたします。

○分科会6「ナノテクノロジー,バイオテクノロジーおよび触媒」
-Nano technology, Bio Technology and Catalysis
理学研究院 教授 魚崎 浩平
 グローバルCOE『触媒が先導する物質科学イノベーション』及び大学院教育イニシアティブ『高邁なる大志を抱いたT型化学者の育成』の支援を得て,理学院化学専攻,工学研究科化学系専攻及び触媒化学研究センター所属の教員(7名),大学院生(14名)が参加して,1月25日(金)〜26日(土)の2日間にわたってソウル大学化学科において標記分科会を行いました。化学系の分科会は昨年に続き2度目の開催でしたが,この間に北大がグローバルCOEプログラムに採択され,ソウル大学を含むアジアの有力大学とともにアジア国際連携大学院を設立しようとする機運が高まっているなかでの開催であり,大いに盛り上がりました。ナノ物質,バイオ分析及び分子触媒に関連した話題を中心として,講演13件,ポスター25件の発表が行われましたが,講演,ポスターセッション共に非常に多くの参加者があり,会場は常に満員で,ディスカッションも熱心に行われました。講演終了後は近くの焼き肉レストランに場所を移し,懇親会を行いました。そこでも活発な議論が交わされました。教員が引き上げた後も日韓の学生は深夜まで親睦を深めたようです。
24日(木)新千歳空港が雪のため北大参加者の大多数が乗った大韓航空便が無事に到着するのかどうかやきもきしましたが,2時間程度の遅れで無事到着し,シンポジウムが予定通り進められたのは何よりでした。
 上述のようにアジア国際連携大学院の本年秋発足を目標に検討を行っており,今後ますます両大学の連携が深まるものと期待されます。
参加者による記念写真
参加者による記念写真

○分科会7「原油汚染からの沿岸生態系の保護」
−Protection of Coastal Ecosystem from Oil Pollution
地球環境科学研究院長 岩熊 敏夫
発表の様子
発表の様子
 北大環境科学院とソウル大学環境大学院は,1月25日(金)午前9時50分から12時50分まで,ソウル大学82号棟205号室において,北大側4名ソウル大側23名の参加のもと分科会“Protection of Coastal Ecosystem from Oil Pollution”を開催しました。これは,昨年12月に韓国Taean沖で起きたタンカーからの原油流出事故を受けて,急遽設けられたものです。両学院長の挨拶に続いて,微生物分解のセッションが行われました。ソウル大のEun Ju Lee教授による汚染海岸の微生物による浄化法,本学修士院生によるバイオオーグメンテーション法によるディーゼル油分解,奥山英登志准教授による原地性バイオオーグメンテーション法による汚染海岸の浄化,について講演がありました。コーヒーブレイク後のセッションではChul-Hwan Koh教授により汚染された沿岸の時空間変化,及び低温科学研究所学術研究員によりオホーツク海における原油汚染拡散シミュレーションについて発表がなされました。
 北大からは教員に加えて学生と若手の学術研究員が参加し,セッションのテーマに直結した研究発表がなされ,工夫されたプレゼンテーションもあって聴衆の関心を集めました。非常に多くの質問がなされ,充実した討議が行われ閉会となりました。当初合同で行う予定であった環境科学分科会とはパラレルのセッションになったため,日本側の参加者が限られたことと,セッション後に十分な交流の場を設けられなかったのが残念でした。昼食後は,環境科学分科会の午後のセッションに参加しました。

○分科会8「大学の国際化」
−Internationalization of Universities
学術国際部国際企画課長 川野辺 創
小早川教授による発表の様子
小早川教授による発表の様子
 このセッションは一昨年の「大学の国際戦略」,昨年の「学生交流の現状と課題」をテーマとした分科会に続き,両校の国際交流担当教員及び事務職員が両校の国際交流の現状及び課題を議論する場として1月25日(金)午前中に開催されました。今回は「大学の国際化」をテーマに,具体的には,海外大学との連携・学生交流の活発化にむけた方策について,現状報告及び問題提起がなされました。
 本学からは小早川護国際交流担当役員補佐(メディア・コミュニケーション研究院教授)及び河野公美留学生交流室係長が発表を行い,本学と国内外大学及び研究機関との連携の現状や,海外からの学生受入プログラムや職員の海外派遣研修などについて紹介しました。
 ソウル大学からは,国際部副部長のKuk Cho氏及び国際課職員のEun-Jeong Kim女史が,ソウル大学のダブル・ディグリー(二重学位)制度の紹介や,英語による授業の実施状況について報告などを行いました。
 現状報告及び意見交換により,海外の学生をより多く受け入れるためには,戦略的な海外広報や学内の受け入れ体制の充実(英語による授業・文化体験等の提供,宿舎や研究室の提供,ワンストップサービスの実現)が肝要であるという,共通の課題が明確になりました。また,大学の国際化にむけては,教員及び学生のインセンティブ向上が不可欠であるという意見が両校より出されました。
 全体を通し,意見交換や質問が積極的に行われ,両校が今後の大学国際化に向けた見解を共有するだけでなく,相手校の取組を知ることで新たな視点も獲得することができ,大変有意義な分科会となりました。

○分科会9「ロシア再興のユーラシアと北東アジアへのインパクト」
−The Impact of Russia's Resurgence on Eurasia and Northeast Asia
 (2月21日(木),22日(金) 於:ソウル大学
 スラブ研究センター・ソウル大学ロシア東欧ユーラシア研究所共催)
スラブ研究センター長 松里 公孝
シンポジウムの主な報告者・参加者
シンポジウムの主な報告者・参加者
 ソウル大−北大ジョイント・シンポジウムの日程が21世紀COE「スラブ・ユーラシア学の構築」の総括シンポジウム(東京)と重なってしまったため,上記イベントは別途開催されました。スラブ研究センターは,科学研究費補助金「新学術領域研究」への応募準備企画としてこれを位置づけ,本学の重点配分経費を用いて中国からも研究者(中国のスラブ学会会長と副会長)を招きました。そのため,本企画は名実ともに「スラブユーラシア研究・東アジア学会」の第1回大会(創設大会)となりました。4セッションと1ラウンドテーブルが開催され,日本から7名,韓国から65名,中国から2名が参加しました。水準面でも,欧米で開催されている世界的な研究集会と比べてもなんら遜色ないものとなり,特に韓国側が全力を投入したのが印象的でした。
 なお,シンポジウムに付随して,日中韓のスラブ学会長が一堂に会して東アジアのスラブ・ユーラシア研究コミュニティが直面する諸問題を議論しました。スラブ研究の地域コミュニティは英語圏,ヨーロッパ,旧ソ連にはあるのに,東アジアだけにはなく,そのためアジアのスラブ研究者は損をしてきました。スラブ研究センターがこのような状況を克服するイニシアチブを発揮するのは全国共同利用施設として当然のことであり,また,「北大をアジアの拠点大学にする」という全学方針を実現するためでもあります。
 

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