シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー長代理 地域に根差したサステイナブルなワインづくりを目指して
シャトー・メルシャンの勝沼ワイナリーで「仕込み統括」を務める丹澤史子さん。「ワインは普段の食事に寄り添える飲み物、地域に根付いた飲み物であるべき」と語り、日本の消費者に喜んでもらえるワインづくりを目指す。学生時代の思い出や仕事のやりがいについて伺った。 ―どのような子供時代を過ごしましたか? 私はブドウの産地として知られる山梨県で生まれ育ちました。祖父は農家でしたから、種なしブドウを作るジベレリン処理や収穫をよく手伝いました。中高生時代は、数学や理科が好きでしたね。先生に言われて新聞の切り抜きをするなかで、食品開発に興味を持ちました。食べることも大好きでしたので、将来は農学部に進んで食品会社で働きたいとぼんやり考えていましたね。
1〜2年生の時は北大祭(楡陵祭)の事務局メンバーを務めました。メインストリートを飾る数多くの模擬店を取りまとめる役割です。やるからには責任を持ってやりたいと思い、2年生の時には事務局長に手を挙げました。模擬店が安全・無事に開催できるように、食品の衛生管理や大学との交渉、消防とのやりとり、交通整理の計画など、ありとあらゆることに関わりました。チーム運営は本当に大変で、反省点ばかりですが、この経験は今の仕事にとても役立っていると感じます。
農学研究院の奥山正幸先生の研究室で糖質分解酵素の研究をしていました。デンプンをグルコースなどの糖に分解する酵素の活性メカニズムを調べていました。「デリケートな酵素の実験ができれば大体の実験はできるよ」と先輩に言われ、就職してからも役立つと思って研究に取り組んでいましたね。就職後、私の面接をした先輩に、「研究の話をとても楽しそうにしていたね」と言われたのを覚えています。
大学で学んだ生化学を生かしたいと思い、また、父に勧められた本の影響もあって、酒造会社であるメルシャンに入社しました。5年ほど、よりよいワインをつくるための基礎研究や工場の品質管理に携わっていましたが、2017年から2年半ほどフランスのブルゴーニュに留学する機会を得ました。フランスのワインづくりの長い歴史、多種多様なワインに驚かされました。一方で、フランスのワインは、肉料理が主体でバターを多く使うフランスの食事にはとても合いますが、日本の毎日の食事と合わせるのは難しいのでは、と感じました。全てを真似する必要はなく、日本では日本の食事や文化にあったワインをつくりたいと思うようになりました。
フランスで学んだ技術を生かすべく、仕込み統括を任されています。生産計画をつくり、ブドウの収穫時期を決め、ワイナリーの作業予定や人員配置を組むなど、ワインづくり全体を担う立場です。ブドウの育ち具合を見極めながら、自分の判断やアイデアがワインの仕上がりに直接影響してくるので、とてもやりがいがあります。
日本の気候や風土を生かしたワインづくりをしたいと思っています。この土地にあった品種を用い、できるだけ労力や環境負荷をかけず、素直なワインづくりをすることで、土地にあった美味しいワインを目指します。人にも環境にもサステイナブルなワインでありたいと思います。
研究室での学び、サークルでの活動、それぞれ別のことだと思っていましたが、それらが今では全て役に立っています。北大の美しいキャンパスや恵まれた環境を活用して、興味があることに積極的に取り組んでほしいです。それが将来の豊かさにつながると思います。
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