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オピニオン Opinion

令和4年度入学式 総長告辞

壇上で告辞を贈る寳金清博総長

 本日、北海道大学は2,545名の新入生をお迎えしました。新入生の皆さん、ご入学、おめでとうございます。

 北海道大学の全ての役職員、在学生を代表して、皆さんのご入学を心からお祝い申し上げます。また、これまで、皆さんを支えてこられたご家族、関係者の皆様に心からお祝いを申し上げます。

 入学式での総長のメッセージは、北海道大学で新しい数年間をスタートする皆さんへのメッセージです。それと同時に、皆さんと一緒に新しい年度をスタートする私自身の決意、そして、北海道大学の全ての関係者へのメッセージと思っています。

 本日中には、英語版のホームページに、英訳が掲載されますので、外国人の学生さんばかりでなく、日本人の学生さんも是非、英語の練習と思って読んでください。

 The English translation of this speech will be posted on our English website later today, and I would encourage all of you, not only our international students but also our Japanese home students, to read through it as English learning material.

 最初に、北海道大学の歴史とキャンパスの素晴らしさをお伝えしたいと思います。まず、歴史についてです。今から146年前の1876年、北海道開拓に資する人材育成のため、欧米の大学に匹敵する高等教育機関を目指して、明治政府によって「札幌農学校」が設立されました。北海道大学の基礎はこの「札幌農学校」です。

 札幌農学校では、まず、米国流のリベラルアーツ教育が行われました。「リベラルアーツ」とは、分かりやすく言えば、「幅広い一般教養」のことです。札幌農学校において、リベラルアーツ教育を大学教育の原点に置き、農学だけではなく、数学、化学、生物学から語学、歴史学、経済学に至るまで多様な基礎教育が英語により実施されていたことは驚くべきことで、現代においても、極めて先進的なことです。

 以来、北海道大学はリベラルアーツ教育を通して、教育と研究に関わる4つの基本理念を培ってきました。すなわち、未踏の学問領域を探求する「フロンティア精神」、国際人としての素養を身に付け、多様性を尊重する「国際性の涵養」、人間形成の基盤を培う「全人教育」、そして、得られた成果を社会に還元する「実学の重視」です。

壇上で宣誓をする新入生

 次にキャンパスについてです。本学は、札幌市の中心に位置し、日本でも有数の規模を誇る札幌キャンパスのほか、函館キャンパス、広大な研究林、臨海?臨湖実験所、果樹園、植物園、牧場などを有し、自然に恵まれた環境の中で教育?研究が行われています。

 私は、海外を含む多くの大学キャンパスを歩いたことがありますが、北海道大学は、世界一美しいキャンパスと、素晴らしい四季に恵まれています。

 このように、北海道大学は、その歴史や立地において、オンリーワンの大学です。私たちは、こうした本学の特徴を一言で表すため、「比類なき大学」と表現しています。

 さて、私たちを取り巻く社会、世界は、今世紀に入って、最大の3つの危機の真っただ中にあります。

 第一は、私たちが予想もしていなかった新型コロナウィルス感染症の世界的な拡大が2年以上も続き、依然として、その出口が見えないこと。第二は、世界の平和的秩序が脅かされ世界の破滅に繋がりかねないウクライナの戦火。第三は、産業革命以降の人類の膨大な生産活動がもたらした地球温暖化などの気象変動により、地球上の命そのものが脅かされていることです。

 この3つに共通することは、全て、人間が引き起こした危機であることです。そして、北海道大学は、この3つの危機の克服について、できることがあるということです。第一に、北海道大学は、大学の総合力を駆使して、コロナをはじめとする新しい感染症と戦うためのヘルスサイエンス研究の中心の一つです。第二に、本学は、全ての教育?研究の領域で、平和とそれに基づく世界の繁栄を求めてきました。特に、北海道大学はロシアに最も近い総合研究大学であり、スラブ?ユーラシア等の研究を通じて、世界の安定した平和の秩序を追い求めてきました。第三に、本学は、この自然に恵まれたキャンパスをサステイナブルなものとする歴史を持ち、エネルギー?地球環境研究に関する総合科学を発展させてきました。

 皆さんは、この入学式の後に、「都ぞ弥生」の演奏をお聴きになります。「都ぞ弥生」は、私たちの先人が、明治時代に作詞?作曲したもので、日本でも最も有名な大学寮歌の一つです。どの歌詞も心を打ちますが、私や壇上の大学関係者が愛して止まない特別なフレーズがあります。それは、曲の一番の最後にあります。「人の世の清き国ぞと憧れぬ」というフレーズです。ここに、私は、先人たちの仰ぎ見るような高い志を見ることができます。

 今ある、この3つの危機に立ち向かう時、私たちは、「都ぞ弥生」に歌われた「人の世の清き国ぞと憧れぬ」という北海道大学の高邁な人道主義の精神に立ち返りたいと思います。この未曾有の危機の時代だからこそ、人道主義の理想の灯火を大学は消してはならないと思います。

 北海道大学のような国立大学法人は、6年ごとに目標を決めて、社会に示す義務があります。この4月、私たちは、新しい6年の期間に入ります。本学は、独自の目標として、世界の課題解決、SDGs達成に貢献することを社会に約束しています。SDGsやゼロカーボンは、世界の多くの国や組織が目標に掲げています。しかし、本学は、150年に近い歴史の中で、創立以来、キャンパスや研究林をはじめとする環境保全、そして、食資源、海洋研究、ヘルスサイエンス研究、DiversityなどSDGsの多くのアイコンを目標にしてきました。SDGsは、本学が本来有していた理念を言い換えたもので、北海道大学150年の遺伝子、DNAそのものです。

告辞を静かに聴く新入生たち

 今日、2022年、令和4年4月の状況を見ると、皆さんの大学生活のスタートは決して平坦なものではないと思います。しかし、数年後の卒業の時には、世界が今の危機を脱して、新しい平和と繁栄の時代の入り口に立っていて欲しいと願います。そして、皆さんが、北海道大学で学んで良かったと思えるようになっていると確信します。

 最後に、皆さんに、札幌農学校初代教頭のウィリアム?クラーク先生が残された有名な言葉”Be ambitious!”という言葉を贈りたいと思います。大変有名な言葉です。短文で覚えやすく、かつ、力強く深い意味を持った言葉です。日本で、このような素晴らしいメッセージを持つ大学を、北海道大学以外に思いつきません。

 ”Be ambitious!”、この言葉は、今後の大学生活や人生において、皆さんに勇気を与えてくれる生涯にわたる魂の言葉になるでしょう。

 新入生の皆さん、これまで私が述べてきた4つの基本理念、そして、多様性の尊重、SDGsの実現、ポスト?コロナの社会創造を通じて、世界の平和と繁栄という、人類共通の高邁な志、「人の世の清き国を目指す」lofty ambitionを達成するための基礎となる力を身に付けて下さい。

 以上をもちまして、私から新入生の皆さんへの告辞といたします。

 本日は、誠におめでとうございます。

令和4年4月6日
北海道大学総長 寳金 清博

※英語版の告辞はこちら