【動画公開】ベンジャミン?リストさん、ノーベル化学賞受賞への想いとメッセージ

化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD) 主任研究者(PI)?特任教授 ベンジャミン?リスト

<写真>ノーベル化学賞のメダルを授与された後、チョコレートのメダルを手にする化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)ベンジャミン?リスト特任教授 ? Nobel Prize Outreach. Photo: Bernhard Ludewig

2021年のノーベルウィークは12月6日から12日までスウェーデンのストックホルムとノルウェーのオスロで開催されています。例年、受賞者たちが一同に会した授賞式や華やかな晩餐会などの祝賀行事が行われていましたが、今年はパンデミックの影響で平和賞以外の受賞者は自国でメダルと賞状を受け取る形となっています。

今回ノーベル化学賞を受賞した化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD) 主任研究者(PI)?特任教授のベンジャミン?リストさん(マックス?プランク石炭研究所長、ケルン大学名誉教授)は、日本時間の12月8日午前2時からドイツのマックス?プランク協会で開催された授与式でメダルと賞状を受け取りました。メダル授与式の様子はマックス?プランク協会から配信されています(Youtube)。また日本時間の8日19時から配信されたノーベルレクチャーはノーベル財団のページからご覧になることができます(Youtube)。

ノーベル賞のメダルを受け取ったリスト教授ノーベル賞のメダルを受け取ったリスト教授 ? Nobel Prize Outreach. Photo: Bernhard Ludewig


ベンジャミン?リストさん、2021年ノーベル化学賞受賞への想いとメッセージ

2021年のノーベル化学賞受賞者が発表された翌日の10月7日に、化学反応創成研究拠点(WPI- ICReDD)で行われた、ベンジャミン?リストさんとのオンライン祝賀会の内容を要約してお伝えします。

映像もありますので、ぜひご覧ください(日本語字幕付き)。

「この受賞は私一人へのものではありません。これほどの栄誉を一人で背負うなんて不可能です。この栄誉を素晴らしい友人であるICReDD(北海道大学 化学反応創成研究拠点)の皆さんと分かち合えて嬉しいです。」

ノーベル化学賞を受賞したベンジャミン?リスト特任教授 ノーベル化学賞を受賞したベンジャミン?リスト特任教授(写真中央、オンライン参加)と化学反応創成研究拠点(ICReDD)の皆さん。2021年10月7日(撮影:広報課 広報?渉外担当 江澤 海)

―ノーベル賞受賞を知ったときのお気持ちは?

何と言いますか、夢が叶ったというか、ほとんど非現実的な感覚でした。発表の日、私は妻とアムステルダムにいたんです。もちろん頭の片隅ではその日がノーベル化学賞発表の日であることは知っていました。ですが、私は「比較的若手」ですし、自分が受賞するなどとは全く予想していなかったのです。

11時くらいだったと思うのですが、携帯電話が震えているのを感じたので、ポケットから取り出しました。画面を見ると知らない番号だったのですが、その下に「スウェーデン」と表示されていました。電話に出てみると、ノーベル賞受賞を知らせる電話で、本当に素晴らしい瞬間でした。


―大きな発見の鍵は何だったのでしょうか

適切な実験に出会うなど、幸運だったことが一因です。恩師であるヨハン?ムルツァー先生に博士課程で教えを受けることが出来たのも偶然でした。私は、70年代に行われたプロリンの研究について知っていましたが、どういうわけか、(科学界では)忘れ去られていました。その後、スクリプス研究所で酵素の結晶構造を研究していた時、アミノ基と酸があることに目が留まったのです。その時、とても単純ではありますが、アミノ酸のことが頭に浮かんだのです。すべてが腑に落ちました。

そうして実験をしたわけですが、私自身、少し馬鹿げていると思っていましたし、おそらく誰もが馬鹿げたアイディアだと言うと感じていました。当時、小さな分子が触媒になるなんて誰も思っていませんでしたから。ですので、私は誰にも言わずに実験をしていたのです。
今では、このような不安な気持ちを大切にするべきだと思っています。自分の仕事に常に確信を持っている必要はないのです。


―どうしてICReDDに参加しようと思ったのでしょうか

第一に、日本の化学の研究スタイル全体に刺激を受けていたからです。先進的で革新的なことに挑戦する勇気があります。そしてもちろん、前田 理先生(ICReDD 拠点長)の計算化学や理論化学へのアプローチが独創的です。実は、今だから言いますが、計算科学や理論化学を反応デザインに応用することについて以前は懐疑的でした。でも今は、化学の歴史上初めて、それが可能になる段階に来ていると思っています。私は強く興味を持ち、その一部を担いたいと思ったのです。


―実際に参画していかがでしたでしょうか

学際的なところや、他の国、他の人々、他の影響力に開放的であろうとする熱意をとても気に入っています。計算科学、実験科学とAI(情報科学)を融合しているところも素晴らしいです。


―ICReDDで今後どのような研究を進めたいですか?

化学反応を全く一からデザインできるような日が来ることを待ち望んでいます。いつの日か、不斉合成が可能な触媒をデザインできるようになるかもしれません。私からすると、鏡像異性体を予測することすら大きな挑戦です。

予測できるとなれば、それは究極的には、ある意味において化学者の実体を損なうことかもしれません。現在の化学研究のスタイルは、いずれ不要になるかもしれません。すぐにそうなるとは思いませんが。
でも私は化学にそのような日が来ることを恐れてはいません。その時には、他の重要なことに取り組めば良いからです。私たちには胸が高鳴るようなことがたくさん残されています。


―若手研究者へのメッセージをいただけますか

何か画期的なものではなく、シンプルなメッセージですが、自分の熱意に従って、本当に好きなことをやってください。結果を求める必要はありません。結果にこだわる必要はないのです。もし目の前にある仕事が自分に合わないと気づいたなら、本当に好きな別のことをやってみるのも良いかもしれません。そうすればもっと幸せになれるでしょう。

受賞研究にあわせて描かれる賞状を手にするリスト特任教授受賞研究にあわせて描かれる賞状を手にするリスト特任教授 ? Nobel Prize Outreach. Photo: Bernhard Ludewig

(12月14日更新)

インタビューの原文は英語です
【創成研究機構/広報課 学術国際広報担当 川本真奈美】