【動画公開】総長が行く「知の探訪」Vol. 2 「果てしない宇宙の終わりなき研究」

総長 寳金清博、理学研究院 教授 圦本尚義

医学博士で脳外科医の寳金清博総長が、北海道大学の魅力あふれる研究者たちを訪問する「総長が行く『知の探訪』」シリーズ。第2回目は「果てしない宇宙の終わりなき研究」と題し、理学研究院の圦本尚義教授と対談しました。探査機「はやぶさ」と「はやぶさ2」がそれぞれ持ち帰った小惑星「イトカワ」と「リュウグウ」のサンプル分析では、国際チームのリーダーとして100名を超える研究者たちを率いた圦本教授。太陽系の起源を探る研究の魅力や、北海道大学の研究環境について語り合いました。

【日英字幕付き】総長が行く「知の探訪」Vol. 2 「果てしない宇宙の終わりなき研究」寳金清博 総長 × 圦本尚義 教授


みかん畑から天文学へ

寳金 先生は和歌山県のお生まれですよね。どんな子供だったのでしょうか。
圦本 家はみかん農家でした。小学校に上がる前は、みかん畑について行ってそこで遊んでいました。

理学研究院 圦本尚義教授 理学研究院 圦本尚義教授

寳金 宇宙への興味というものは、その頃からあったのでしょうか。
圦本 山の土を掘り起こすと、そこから水晶などが出てくるんです。キラキラしたものを集めたりしていましたから、そういう採集癖みたいなのはあったのだと思います。その後、理科が好きになって、天文に興味を持つようになりました。
寳金 学位を取った後、どんな研究を始めたのですか。
圦本 スタートは隕石です。でも直接隕石の研究をやり始めたのはもう少し後で、初めは固体の中の原子の拡散について実験していました。

寳金清博総長 寳金清博総長

寳金 隕石のサンプルが現実に手に入るということは、その頃からできたのでしょうか?
圦本 その頃は難しかった時代ですね。
寳金 例えば地球に落ちてくる隕石を調べることは、研究の対象になるのですか。
圦本 そうですね。隕石を調べるとたくさんの事がわかってきます。それがすべての基本になります。
寳金 本当の宇宙にある、小惑星からサンプルを持ってくるというのはごく最近ですよね。
圦本 それは最近ですね。ちょうど35年くらい前からです。
寳金 「はやぶさ」が最初ではないですよね。1番最初にそれをやったのは?
圦本 小惑星からは「はやぶさ」が世界初ですけれども、最初に宇宙のサンプルを地球にもってきたのはアポロ11号ですね。


小惑星サンプルから知る太陽系の起源

寳金 太陽系の起源を知るために「リュウグウ」などからサンプルを持ってくることの意味と、なぜそれが必要になるかいうことを教えてください。

「はやぶさ2」がサンプルを持ち帰った小惑星「リュウグウ」の模型を前に語り合う2人 「はやぶさ2」がサンプルを持ち帰った小惑星「リュウグウ」の模型を前に語り合う2人

圦本 太陽系の起源を理論的に知るには色々な方法がありますが、証明するにはその時の化石を持ってきて、調べて、情報を得るというのが、唯一の実証の方法になるわけです。今までずっと隕石がその主役を担っていて、たくさんあるのでバラエティもありますし、一般性、特殊性がわかってくるので、それが研究の基礎になります。一方で、隕石ってどこからやって来たのかと言うと、空からとしか言えないんです。どの天体から来たかということがわからないので、それを見つけに行くというのが最初の「はやぶさ」ですね。
寳金 なるほど。
圦本 そして「はやぶさ2」は、「はやぶさ」を元にして小惑星のバラエティを見つけに行くという、科学のもう1つ次のステップに進みました。多分、小惑星の宇宙探査が主役になる時は、今の隕石(探査)と同じぐらい手軽に我々が宇宙に進出している時代で、そうなると更にもう1つ次のステージに進むでしょう。だから宇宙旅行が一般的になるまでは、はやぶさのように小惑星に行くということを努力してやらなくてはならない時代なんだと思います。


自分で考え、突き詰める研究

寳金 先生は北海道大学では最もたくさん、海外で権威のある科学誌であるネイチャーやサイエンス誌に投稿されている方のおひとりだと思います。
圦本 たまたまネイチャーに載っただけということです。連名でよければ、ネイチャーに載せるのもそんな難しくないんですよ。
寳金 共著論文ですよね。プロジェクトで研究を進める良さはありますか。
圦本 プロジェクトっていうのは活気があるので、中にいると楽しいですけど、題材自体に流される部分が多いんですよね。本当に面白いのはやっぱり自分で考えて、それをずっと突き詰めるということが重要なので、若い人には、(プロジェクトのような大型研究を)やることは反対しないですけれども、バランスを考えて自分のずっとできるサイエンスというものを考えて欲しいと思いますね。


北大で研究する喜び

寳金 北海道大学に来て、ここが良かったということや、ここは若い人のためにも変えて欲しいなどあれば、是非教えてください。
圦本 北海道大学は本当に来て良かったと思っています。総合大学で色々な先生がいて楽しいんですよね。一番僕が知りたかったのは、生物の先生ってどんなことを考えているんだろうっていうことで、それを生物の先生とコラボレーションしていろいろ教えてもらいました。北海道という場所も非常に快く受け入れてくれて、北海道新聞文化賞(2010年受賞)というのを来たばかりでもらったし、こういう風土なんだと嬉しかったです。僕にとっては、非常によくしてもらえたと思っています。

小惑星サンプルなどを解析する同位体顕微鏡の記録を確認する圦本教授 小惑星サンプルなどを解析する同位体顕微鏡の記録を確認する圦本教授

寳金 科学者としての広報、アウトリーチというのは、ご自分のお仕事だと思ってやってらっしゃるのではないかなと思うのですけど、いかがですか。
圦本 それは本当にやりたいと思ってやっています。後押しされたのは「はやぶさ」の時で、結構反響が大きいし、市民の方が応援してくれたので、これはやっぱりやる価値はあるんだなっていうことをあらためて思いました。もう1つ、僕は1人じゃできないんです。できている人は自分でプロモーションして素晴らしいんですけど、僕は誰かに助けてもらって、そうするとうまくいく。それができ始めたのは北大に来てからですね。
寳金 北大に来て広報がより活発に?
圦本 まず北海道大学に来て、よそ者を皆さんがきちんと喜んで受け入れてくださったっていうのがすごく嬉しくて、ありがたかったですし、その後広報の人たちに後押ししてもらい、そこに僕が乗っかって色々なことができた。そうした科学コミュニケーションができたというのも、すごいラッキーだったと思いますね。
寳金 ノーベル賞を取った先生方を見ると、みんなやっぱりよく語るなと思うんです。圦本先生のように、あることを突き詰めた方ってやはり、流ちょうに話すということとは違って、きちんと伝えるということをしっかりやっていらっしゃる。やっぱり楽しいですか。
圦本 それは楽しいですね。


研究で一番楽しいこと

寳金 この研究をやっていて、一番楽しいことは。

開発した同位体顕微鏡の説明をする圦本教授(左)と寳金総長 開発した同位体顕微鏡の説明をする圦本教授(左)と寳金総長

圦本 グループの人が実験結果を持ってきて見せてくれる時が一番楽しいですね。
寳金 しっかりとした結果が出てきたときですか。
圦本 いいえ、しっかりと結果が出ていなくても良いんです。これなんですとか、これダメですとか。それが1番楽しいですね。僕が人生で一番頭が良かったのは30年前だと思うんです。だから総合力では勝っていると信じたいけれど、多分それも信じているだけ(笑)。色々な事は若い子がやるのが1番いいので、そこから吸収させてもらうのが1番楽しいですね。
寳金 次の研究のゴールはどこにありますか。
圦本 いや、ゴールは多分、たどりつかないですね。今までそこまで行った試しもないですからね。だから、研究できる環境にいるうちに、今やっている太陽の研究をやれるところまでやって、あとは、共同研究者の人には自由に発展していってもらいたいと思います。


「選択と集中」への思い

圦本 ただ、今ちょっと心配なのは、全国的に研究の予算がだんだんと減っていて、北大が余裕をもって面白い研究をできる大学としてずっと生き続けるためには、どういう風に運営していくのかっていうのが重要じゃないかと思っています。
寳金 プロジェクトのように予算が終わるまでに結果を出さなければいけないような研究もある一方で、じっと腰を据えて、すぐに結果が出なくてもいい研究も必要だと思います。北大も含めて、いま国の科学研究の中で、基礎研究よりも課題解決型の方に資金が割かれるような、いわゆる「選択と集中」が起こっているのが結構大きな問題となっていると思います。

「はやぶさ2」の功績を祝う盾 「はやぶさ2」の功績を祝う盾

圦本 一番いいのは、選択と集中をどこかから搾取しないでできるといいんですよね。全体の研究費の予算が減ってしまったら、必ずどこかいびつになってしまう。僕も答えは出ないですが。
寳金 その通りで、十分お金があった時なら選択と集中をしても、僕はいいと思うんですよ。今は本当に財源が限られてしまった。僕たちのような大学の総長から言わせると、国としてもう少し、全体に対する科学技術の予算を削らずに増やしてさえくれたら、日本の科学技術は十分伸びるチャンスを持っていると思うんですよね。圦本先生の研究はこの分野で非常に成功していますが、この陰でそれに匹敵するだろうと思われて日の目を見なかった研究がきっとたくさんあるのかもしれませんね。
圦本 はい。たくさんあると思います。私は運が良かったです。


対談を終えて

圦本 総長と長い時間お話させていただいたのは今回初めてでしたが、しっかり舵をとって、北海道大学を良い方向に進めてくださると信じられるようなお話をいただきましたので、非常に期待しています。
寳金 すぐに実学に結びつかなくても、本当に興味を持って結果にこだわらず長い間1つのことに集中してやってこられた、数少ない研究者なのではないかなと思いました。それから、先生の人柄が、一緒に仕事をして非常に楽しいんじゃないかなと思える人なので、それがいろんな学内外の仲間とも繋がりをつくっているのだと思いました。研究は、もちろん実力も頭脳も必要だけど、パッションとか人柄みたいなものがすごく大きいなと、改めて感じました。

創成科学研究棟内の同位体顕微鏡室で創成科学研究棟内の同位体顕微鏡室で

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English version is here.
The President's Adventures in Knowledge-Land Vol. 2 "Endless Research in an Endless Universe"